金の斧銀の斧


昔々あるところに、ゾロというきこりが一人住んでおりました。
元々、人付き合いの苦手な青年でしたので、
1人でのんびりと過ごすことのできるきこりの生活が好きでした。
毎日決まった分だけの木を切り、残りの時間はごろりと横になるか、
トレーニングにはげむ毎日。
そんな淡々とした日々でしたが、ゾロは不満を覚えたことはありませんでした。
その日も、朝のトレーニングを終え、昼までに今日の分の仕事を終わらせようと、
池のほとりで、木を切っていました。
静かな山の中に、ゾロの振るう斧の音だけが響いています。
規則的な音とともにゾロの横には木の束がどんどんと増えていきます。
こんなもんだろう、木の束を眺めてそう思った時でした。
斧が手からすっぽ抜けると、ぽちゃりと池の中に落ちてしまいました。
「ちっ」
ゾロの手持ちの斧は1本だけでしたので、ゾロは潜って取ってくることにしました。
穏やかな陽気で水も冷たそうではありませんでしたし、透きとおった水面は鏡のように静かです。
服を脱ぎ、さぁ飛び込もうとした時、池の中から1人の少年が現れました。
白い衣服を身にまとい、水の中から出てきたというのに濡れた様子はありません。
黒いウェーブのかかった髪の毛、長いピノキオのような鼻、そして大きな口。
両手には3本の斧を持っておりました。
にこにこと笑顔を浮かべて、ゾロを見ています。
いきなりの出来事にあっけに取られて見つめるゾロに少年は嬉しそうに言いました。
「斧を落としたのはあんたか?」
「・・・・ああ」
「今落としたのは、この金の斧か?銀の斧か?それともこの普通の斧か、どれだ?」
「・・・普通の斧」
「おまえ正直もんだなぁ。ヨシ、正直もんだからこの金の斧と銀の斧もやる!」
「いらねぇ」
間髪いれずに断られた少年は困ったような顔をしました。
「そんなすぐに断るなよ、金と銀の斧だぜ?」
「邪魔になるだろうがそんなもん」
「普通はありがとう!って言うもんじゃねーのか??
・・・やっとこんなへんぴな所で斧落とすやつがいたかと思ったら・・・はぁ」
少年は大きくため息をつくと、
「ほら、ひとまず返す。」
とゾロの斧を返してくれました。
「っていうかおまえ何してんだ。斧なんかくばって、こんなところでボランティアか?」
「仕事だよっ。ここで斧落とした奴にこうやって聞いて正直者には金と銀の斧やるのが!
・・・まぁこうやって聞いたのは初めてなんだけどな」
「そりゃそうだろ」
「やっと斧落ちてきたから喜んで来たのにさ・・・もらってくれねぇ?」
「いらない」
「だよなぁ・・・こんなところでこんな斧貰ったってどうしようもねぇもんなぁ・・・」
少年はぶつぶつと何かを言ってましたが
「ま、いいか。なぁ、俺ずーーーーーーっとここで1人で暇だったんだ。ちょっとくらい話しててもいいか?」
ゾロが頷くと少年は本当に嬉しそうな笑顔を見せました。
とても可愛い笑顔です。
「俺、ウソップって言うんだ。ま、ここの見張り番みたいなもんでさ、
下っ端はへんぴな所って決まってるらしくってさ。
たいくつでたいくつでしょーがなかったんだー。おまえ何て言うんだ?」
「ゾロ」
「そうか、ゾロか。ゾロはきこりなのか?」
「まぁな」
2人は夕方まで話をしておりました。
ほとんどがウソップの話をゾロが聞くという形になっていましたがそれは楽しい楽しい時間でした。





それから毎日のようにゾロは池のほとりで斧を落としてはウソップと話をしていました。
「金の斧と銀の斧をいるか?」
「いらねぇ」
毎日のようにお決まりの会話を繰り返したあとに、夕方まで話をします。
そんな日々を送るうちにゾロはウソップに恋心を持つようになりました。
表情がくるくると変わるウソップは見ていてとてもほほえましいものがありましたし、
目を輝かせてゾロの話を聞く様子を見ているともっと話してやりたくなります。
2人は毎日飽きもせずただただ話を毎日しておりました。
ある日、いつものようにウソップの
「金の斧と銀の斧をやるから」
その言葉にゾロは軽く
「ああ、貰おうか」
と答えました。別に意味はありません。
ウソップが喜ぶかなと思っただけの言葉でした。
思ったとおり、ウソップは嬉しそうに頷きました。
「よし!これが金の斧で、こっちが銀の斧だ。大事にしろよ」
「大事にするさ。ウソップから貰ったモンだからな」
ウソップは少し赤くなりました。
それから少し口ごもると
「俺・・・な、ゾロのこと好きみたいなんだ」
ウソップがそう言いました。
照れた様子のウソップは恥ずかしいのか下を向いてしまいました。
ゾロはウソップの頭をぐりぐりとなぜ、そして
「俺もだ、ウソップ」
2人は見つめあいました。
ほこほこと暖かいものを胸の内に抱えながら2人は色んな話をしました。
お互いの気持ちがわかったせいか今日はいつもよりも長い間一緒に過ごします。
もう日も暮れるという頃に名残惜しく思いながら、2人は別れました。
「また、明日な」
ゾロが声をかけ、ウソップは大きく頷きます。
ゾロが見えなくなるまでウソップはゾロを見送り、そして消えていきました。





次の日。
いつものように、ゾロは斧を池に落としました。
しかし、いつまでたってもウソップの姿は現れません。
ゾロは慌てて金の斧を投げ込みました。
やっぱりウソップは現れません。
銀の斧も投げ込んで現れないことに焦ります。
池の中に飛び込んでみましたが,見つかったのはゾロが投げ込んだ3本の斧だけです。
仕方なくゾロは待つことにしました。
昨日はあんなに楽しそうにしていたウソップです。
いきなりいなくなったなんて考えたくもありません。
何かあったのでしょうか?
ゾロは仕事も手につかず、ただただ、池を眺めて過ごしました。
その日もあくる日もそのあくる日もゾロは池の中に斧を投げ入れました。
しかしウソップの姿はいつまでたっても現れません。
本当にウソップに嫌われたのかもしれないと、ゾロは考えるようになりました。
そう考えてしまえば、このウソップとの思い出のあるこの池のそばは
ゾロにとっては辛い場所でしかありません。
金の斧と銀の斧を池に投げ込むと、ゾロはその場所を去りました。





木を切っていてもトレーニングをしていても、昼寝をしている時でさえ
浮かぶのはウソップの笑顔です。ウソップの声です。
どうしたのでしょうか。
ウソップに何をしてしまったのでしょうか。
ゾロはそれを吹っ切るために、また仕事に励みました。
次にゾロが新しく仕事場になったのは、小さな池のそばでした。
池を見ればウソップのことを考えてしまうのがいやで
ゾロはいつも池に背を向けて木を切りました。
何日か過ぎて、ゾロがまた木を切っている時でした。
あの時のように手から斧がすっぽりとぬけてぽちゃんと池に落ちました。
すると。
「あんたが落としたのは金の斧か、銀の斧か・・・ゾロ!!」
出てきたのはウソップでした。
「ゾロ、ゾロ、ごめんな、いきなりいなくなって!」
「・・・ウソップ!!・・・心配したんだぞ、どうして・・・」
「あの池で、渡せる金と銀の斧1組だけだったんだ。ゾロにやっちまったろ?だから転勤」
「はぁ?」
「俺だって、戻っていきなり転勤だって言われてびっくりしたんだ。
明日まで待ってくれって言ったけどダメだって・・・。もう会えないかと思ってた」
「・・・転勤・・・。なんだよ、それ・・。俺はてっきり・・・」
「ほんとに、ゴメン!でも嬉しい。また池に落とすなんてすげえけどな」
ウソップの顔を再び見ることができ、その上嫌われていないと分かったゾロは
嬉しさのあまりウソップを思い切り抱きしめておりました。
「ゾロ・・・」
ウソップの腕もゾロの体を抱きしめます。
「もう・・・」
「ん?」
「もう、絶対に金の斧も銀の斧も受けとらねぇからな」
「うん!」



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